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【連載】亀甲紋が地震と津波を消す日

課題の所在と既存手法の構造的限界

1-1 リスクの定量的現実

南海トラフ巨大地震は、日本が直面する最大級の国家リスクである。 政府の被害想定では、最大で死者約32万人、経済損失約220兆円(内閣府試算)とされており、これは国家財政・社会保障体制・産業インフラに対して回復不能な打撃を与えうる規模である。

発生確率についても、今後30年以内に70〜80%とされており、これはもはや「低頻度大規模リスク」ではなく、確率的にほぼ確実な近未来の事象として位置づける必要がある。

2024年8月8日16時42分、日向灘沖においてマグニチュード6.9、震度6弱の地震が発生し、政府は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を初めて発令した。国土地理院の地殻変動情報(遠報)もこれを記録しており、前駆的地殻活動の活発化が示唆されている。加速度面では、愛知県沖・平均水深20メートルにおける津波最大加速度は**1,400ガル(1,400cm/s²)**と試算されており、東日本大震災の観測最大値(721〜1,071ガル)を大幅に上回る規模が想定される。


1-2 既存の防災インフラが抱える構造的限界

1995年の阪神淡路大震災以降、国・地方公共団体・研究機関は耐震・免震・制振設計の高度化、防潮堤・防波堤・消波体の整備・強化に多大な公的資源を投じてきた。

しかしながら、2011年の東日本大震災において、設計基準を満たした防潮堤・防波堤の多くが機能不全に陥ったことは、既存アプローチの根本的な限界を示している。

その限界は一言で言えば、「物理的強化」という方向性そのものの限界である。

巨大自然エネルギーに対して人工構造物が「正面から対抗する」という設計思想は、エネルギーの絶対量において自然に劣る。防潮堤を10メートルにすれば15メートルの津波が来る。耐震等級を上げれば想定を超える地震が発生する。これは技術の問題ではなく、パラダイムの問題である。

2016年の熊本地震、2024年の能登半島地震においても、既存の工学的手法の枠内では人命・財産の保全に明確な限界があることが改めて確認された。

現状において、住民に提供できる有効な手段はハザードマップによる事前避難に限られており、インフラ保全・資産保全・事業継続(BCP)の観点からは、根本的な解決策とはなり得ていない。

1-3 政策的・投資的含意


上記の状況を踏まえると、次の2点が政策的・投資的課題として浮上する。

第一に、防災インフラへの公的投資は「強化」から「消去」へのパラダイム転換が必要である。 既存の耐震・制振設計に追加投資し続けることは、限界効用が逓減し続ける投資行動に他ならない。地震動・津波波力そのものを「消去」するメカニズムを持つ構造体は、従来の防災設計とは次元の異なる費用対効果をもたらす可能性がある。

第二に、この課題の解決は日本単独の国益にとどまらない。 インドネシア・トルコ・チリをはじめとする環太平洋・地中海地震帯諸国への技術移転は、日本発の防災技術の国際展開として、外交・経済の両面で戦略的価値を持つ。

次章では、この課題に対するアプローチとして提案されている「可撓性モノコック構造体」の技術的概要と、その発想の起点を論じる。

(次章)第2章 技術的着想の起点──日本伝統工学と現代波動物理学の接続

 




 
 
 

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